連載コラム~おもてなし接客術~

『おもてなし接客術』㉕―「お客様経験で磨くおもてなし」

Posted on 2017-06-13

旬刊旅行新聞6月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』㉕です。
「お客様経験で磨くおもてなし」

おもてなし接客術25

現在、旅館の料理提供のマニュアル作成の支援をしています。マニュアル作成にあたっては、準備物や動作確認が必要になるため、現場リーダーに、現状の接客の流れを確認すると、明らかにおかしい料理提供のルールが常態化していることがわかりました。

お客様が席に着いてドリンクオーダーを受けた直後に、御飯とデザート以外のすべての料理が一斉に並んでいたり、お客様が席に着いたタイミングで鉄板料理と鍋料理に着火をしているのです。数々の料理が一度に目の前に並べられると、1品1品としての料理の価値も下げてしまいますし、目の前の料理を食べることに一生懸命になってしまい、あまりお酒も進まないはずです。

そのリーダーは食事処でお客様として食事をした経験はないとのことでした。実際に一緒に食事をしたところ、「お客様は、こんな量のお料理をよくお召し上がりになりますね」とか、「先に料理が全て揃ってしまうと、後から来る楽しみがなくなってしまいますね」、「最初に、鉄板と鍋物の火は付けない方が良いですよね」など意見が出てきました。

さらに、「このタイミングでおしぼりが欲しいですね」、「やはり箸置きはあった方が良いですね」、「御飯は御櫃の方がありがたいですね」などの発見や意見が出てきて、現状の料理提供の仕方に問題意識を持っていただけました。

また、食事処の席の配置もおかしいことに気が付きました。この宿は観光のお客様も、ビジネスのお客様も宿泊していることから、食事処の椅子とテーブルの種類と配置は観光とビジネスとで明確に分けています。

ただ、食事開始時刻もまちまちで、品数も少なく比較的パッと召しあがるビジネスのお客様の方が食事会場の奥の方の席、一方で食事時間も決まり、品数も多く、ゆっくり召し上がる観光のお客様が会場手前に配置されていました。そこで、「手前側を観光のお客様にしてしまうと、ビジネスのお客様の出入りがあって落ち着かない上、会場奥の調理場近くに待機しているスタッフの目も届きにくいのでは」という問題提起をして、「ビジネスと観光の位置を変更してみては」と提案しました。実際の現場で確認すると、案の定変えた方が良いという結論にいたりました。

旅館の経営者は、スタッフから下の名前で呼ばれたり、敬語抜きで話すスタッフもいる程、従業員との距離が近く、諸々の権限も現場に預けるような方です。それなのに、今まで意見が出てこなかったのは、「社長が恐いからそんなこと思っても口にできない」という訳ではなく、思っていても口にする機会がなかっただけなのです。

日ごろ現場にいるスタッフにお客様経験をさせ、考えたり、感じたことを述べる機会を設けるだけでも現場はかなり改善できるはずです。

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株式会社観光文化研究所 井川今日子

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『おもてなし接客術』㉔―「生産性向上には教育を」

Posted on 2017-04-16

旬刊旅行新聞4月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』㉔です。
「生産性向上には教育を」

おもてなし接客術24

2月に開催した旅館業経営者向けセミナーで、事例を中心に旅館の接客マニュアル作成の必要性について話をしたところ、仕事の依頼を多く頂きました。そこで、その内容の一部を紹介いたします。

旅館業界でも「生産性向上」が注目ワードになっていて、業務効率向上のためIT化や作業順序の見直しなどを徹底する動きが出ています。もちろん、その事も大切ではありますが、個人的にはIT化や業務見直しよりも、従業員の教育の方が先決であると考えています。

お客様との接客時間が長い旅館業でもっとも効率が悪いのは①接客の流れが確立していない②お客様からの質問に答えられない③お客様に満足してもらえない――ことだと考えています。接客の流れが確立していないということは、効率の良い動きをしている人もいればそうでない人もいるという状態です。

お客様の質問に答えられないということは、きちんとした知識を身に付けておけば30秒で回答できるものが、10分以上も時間がかかってしまうケースがあるということです。そして、お客様に満足してもらえないということは、リピーターにも繋げられていないということです。

接客の流れを確立し、質問にも即答できるスムーズな接客を提供できれば、接客においては、きっとお客様に満足してもらえるでしょう。

接客したお客様をリピーターや紹介客獲得に繋げられるのは、非常に生産性の高い行為だと言えますが、その反対は生産性の低い行為だということになります。従業員に効率の悪い3要素が揃ってしまうと、いくらIT化や業務効率化を推進したところで、生産性の向上は難しいものと考えています。

そこで提案したいのが、接客のマニュアルを作成するということです。一度きちんとした接客マニュアルを構築して、この3要素を網羅した上で、IT化などを推進すれば、明らかな生産性向上が実現できるでしょう。

旅館で「研修直後は皆頑張って教えられた通りのことをするんだけど、なかなか継続しなくて」という話は、研修を担当させていただく旅館で良くお寄せいただくご相談です。

実はその悩みを解決するのもこの接客マニュアルです。セミナーでご登壇いただいた南平台温泉ホテルでは、新入社員には、先輩に師事させるよりも何よりも先に、マニュアルを見せるようにしています。

そうすると、「新人さんはマニュアルを見てから現場に入るので、先輩である、私がマニュアルと違うことをしていると示しが付かない…。マニュアルに忠実に従わないといけない」という意識付けにもなっているようです。

生産性向上を実現するためにも、マニュアル作成をしてみてはいかがでしょうか。

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『おもてなし接客術』㉓―「到着前からのおもてなし」

Posted on 2017-02-11

旬刊旅行新聞2月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』㉓です。
「到着前からのおもてなし」

おもてなし接客術23

「今度、地元のタクシー会社を3社呼んで研修をします」という話を、支援させていただいている先から聞きました。理由を聞くと、地元タクシー会社の対応が悪すぎて、タクシーを利用するお客様の到着時のご機嫌が悪いことが多々あるからとのことです。恐らく荷物の扱い方や言葉遣いも酷いのでしょう。予約を詰めすぎて、お客様のお迎え時間にも間に合わないことも時々あるようです。

この施設は所在する県も異なる2館の宿を経営しているのですが、もう一方の旅館近くにあるタクシー会社では、このような事態にはならないようですので、タクシー会社全般ということではなく地域性も大きく影響していると思います。

私も過去に何度か、旅館組合からの依頼でタクシー会社向けの研修を担当したことがあります。

そのことから、観光地のタクシー運転手の接客対応を改善する必要性は常日頃感じることです。

タクシーを利用する宿泊客が多く、単価が高めで且つおもてなしに力を入れている宿ほど、タクシー会社を選定されています。

私の研修でもよく話をしますが、宿に到着時のお客様の精神状態は、その後の宿の評価に大きくかかわってきます。全く関係の無いことであっても、到着時の機嫌が悪ければ宿についても否定的な視点が働きやすくなり、粗探しをし始めます。到着時のお客様の感情をコントロールすることは、宿にとっても非常に大事なことなのです。

タクシーの話からは少し反れますが、先日視察した旅館では、最寄り駅からの送迎バスの中で、良い香りのする温かいおしぼりを提供し、車内ではヒーリングミュージック(癒しの曲)が流れていました。その他の対応を見ても、顧客の心理状態をよくコントロールされていると感じるとともに、じゃらん.netの口コミ評価4.9というのも頷けました。

タクシー会社に限らず、バス会社、鉄道の駅員など、宿泊前後の接点となる事業者のスタッフの対応に、日ごろ不満を感じている場合には、宿主導で接客研修会を開いてみてはいかがでしょう。多くの事業会社の経営者も、宿側からの提案を有難く思うはずです。宿側にとっても、宿泊前後のお客様の印象を良くすることは、メリットも大きいと思います。

タクシー会社を呼んで研修をする宿でも「(このことで)競合の旅館に泊まるお客様の評価も上げてしまうが、背に腹は代えられません」と話をしていましたが、逆に研修の成果が出て他の宿に泊まるお客様がそのタクシーに乗車した際、お客様に接客を褒められるかもしれません。

そのときの会話で「実は〇〇(宿名)に研修をしていただいたのです」という話になれば、良い営業にもなるはずです。

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『おもてなし接客術』㉒―「すべきことをしないのもおもてなし」

Posted on 2016-12-20

旬刊旅行新聞12月11・21日合併号に掲載されたコラム『おもてなし接客術』㉒です。
「すべきことをしないのもおもてなし」

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先日、ある旅館から「お客様のお見送りはしたいのですが、ご出発時にカーナビの設定をするお客様が多く、その設定を待っていると、逆に急かしてしまっているようで申し訳なく思ってしまいます。スマートなお見送りの仕方はないでしょうか」というご相談を頂きました。

私も旅館に泊まって出発する際、こういう場面に出くわすことが多くあります。見送りで女将や仲居さんを待たせてしまうのは申し訳ないので、前の日のチェックインの際に、翌日の目的地をカーナビで設定するようにしています。
もし前日に設定ができなかった場合は、「ナビを設定しますので、もう結構ですよ」と見送りを遠慮するのですが、「どうぞごゆっくり設定なさってください」と、結局待たれてしまいます。そんなときは、取り敢えず出発して、後で一旦車を止めて、ナビを設定しますので、ご相談される旅館側の心情もよく理解できます。

お見送りする側(旅館サイド)としては、純粋にお見送りがしたいと思っているはずで、その際に、例えお客様がカーナビの設定を始めても、まさか「早く行け」とは思っていないはずです。

一方で、見送られる側(お客様サイド)は、車の外で出発を待っているスタッフの姿を見ると、「仲居さんを待たせて出発にもたつくのは不格好だし、取り敢えず早く出発しないと」と、急かされるような気持ちになるわけです。

このように、見送られる側の配慮や心情を考慮すると、お客様のことを「思って、為す」ことを「おもてなし」と考えた時に、最後までお見送りをすることが必ずしも最善であるとは限りません。

実はこういった事情に対して、具体的な策を講じているお宿があります。そこではWebサイトやチェックインの際、お客様にお渡しするツールの中に、「私たちがお見送りをしようといつまでも側に立ってしまうと、お客様が気忙しく感じられるでしょうから、ご出発になるまでのお見送りを社員に推奨しておりません」と明記されています。それが、季粋の宿 紋屋の「お見送り」項目http://www.monya.co.jp/story5.htmlです。

他の旅館と比較すると、ややあっさりしているなという印象はありますが、宿側のコメントにある通り、落ち着いてカーナビやシートを設定することができて、むしろ「快適で気が利くな」と感じました。

今回、見送り時の悩みをご相談いただいたお宿には、お会計の際にフロントカウンターにこのような記載をすることを提案させていただきました。

「マニュアルにあることはリアルの接客の1割でしかない。あとの9割はスタッフ自身で考えて作っていかなければならない」。これはある旅館の女将さんの言葉ですが、『おもてなし接客』とはこのことなのです。

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『おもてなし接客術』㉑―「カスタマージャーニーマップ」

Posted on 2016-10-11

旬刊旅行新聞10月21日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』㉑です。
「カスタマージャーニーマップ」

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「お客さまの視点で考えよう」と言うのは簡単ですが、実際にお客様体験をしないと、なかなか分からいものです。たとえば、お客さま視点で物を考えようとするときに、スタッフである自分が接客している姿が見えなければ、本当にお客さま目線に立ったとは言えないわけです。

そこでお勧めしたいのが、カスタマージャーニーという考え方です。これは、お客さまの経験をストーリーで捉えるということです。お客さまが商品・サービスを購入・利用する際に、企業との間で発生するやりとりや、お客様が抱く疑問・期待等の感情、行動をプロセス化し、一連の流れとしてとらえることを指します。企業視点では見えにくいプロセスを、可視化してとらえることができ、課題の発見や部門間連携への意識を高め、結果として顧客満足へ繋がるという考え方です。

たとえば、宿側から見た「チェックイン~客室案内」のジャーニーマップは次の通りです。

1.挨拶+宿帳の記入「いらっしゃいませ。こちらへのご記入をお願いいたします」。
2.館内の説明(大浴場の場所・入浴可能時間、売店の営業時間)。
3.夕食時間のヒアリング。
4.アレルギー等食べられないものがないかについての確認。
5.挨拶「それではお部屋へご案内します」。このような感じです。

続いて宿泊客から見たジャーニーマップです。分かりやすいように、宿側と重複する部分には〇を付します。

〇1.挨拶+宿帳の記入「いらっしゃいませ。こちらへのご記入をお願いいたします」。
2.荷物を置ける場所の確認(荷物を持ったままだと書きづらい)。
3.疑問(予約の時に名前も住所も知らせたけど、なんでまた記入しないといけないのだろう)。
〇4.館内の説明(大浴場の場所・入浴可能時間、売店の営業時間)
5.疑問(大浴場にはどんなアメニティが置いてあるのだろう。タオルは持っていく必要があるのか。売店には試食が置いてあるのか)。
〇6.夕食時間のヒアリング。
7.疑問(すぐにビールが飲みたいけど、今注文できるのか)。
〇8.アレルギー等食べられないものがないかについての確認。
〇9.挨拶「それではお部屋へご案内します」。
10.質問・疑問(他にも確認したいことがあったけど、忘れちゃった。)。
11.お手洗いへ行く。

2つのジャーニーマップを比較してみると、旅館側のジャーニーマップは一方的で、お客様の心理状況を全く汲み取れていないように見えます。

随時お客さまが抱く疑問に対して、先回りをしてご案内をして差し上げると「痒いところまで手が届くサービス」となり、多くのお客さまの満足度が高まるのは言うまでもありません。

メインターゲットを定めて、カスタマージャーニーを描いてみてはいかがでしょうか。

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『おもてなし接客術』⑳―「クレームを未然に防ぐ」

Posted on 2016-08-21

旬刊旅行新聞8月21日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑳です。
「クレームを未然に防ぐ」

おもてなし接客術⑳

お客様のことを“思って”“為す”おもてなし接客には、お客様を喜ばせるだけではなく、時にはお客様の感情のコントロールが必要となる場合もあります。旅館が良かれと思ってしていることが、お客様に伝わらないと思ったことはありませんか。

例えば、女将の挨拶。
「女将の挨拶があってこそ旅館の醍醐味」と考えるお客様もいれば、宿泊先ではプライベートな時間を大切にしたい」もしくは「寛ぐのが目的」などの理由で、「女将の挨拶は不要」と考える方もいます。 両方の意見を持ったお客様が同じ旅館に泊まるので、女将が挨拶をしてもクレームになるし、挨拶をしなくてもクレームになるわけです。

チェックイン時間前の宿の状態については、電気を消して真っ暗にしていると「営業時間前なのだから暗くて当然。省エネ(環境)に配慮できている旅館」と評価される一方で、「お客様が到着するかもしれないのにもかかわらず、真っ暗にしているなんて信じられない」と酷評するお客様もいます。

この、2つの考え方を持ったお客様が1つの旅館に泊まられるので、何をしてもクレームになるということです。接客においてはこの点を肝に銘じておかなければなりません。

お客様の中には「旅館はこうあるべきだ」という強い固定観念を持って、たまたま宿泊した旅館に押し付ける方もいますが、“あまり”それに振り回されず、お客様の意向に迎合せずに、宿の考えを主張することは宿の独自性を出すという意味でも、大事なことだと私は考えています。

クレームを頂くことに対して、開き直っても良いというつもりは毛頭ありませんが、常識的な範囲内での宿のスタンスから生じる、ある程度のクレームはしょうがないということです。

それでは、このように両極端の評価を下すお客様たちに、どのような対策が取れるでしょうか。これには接客中に宿のスタンスをきちんと説明して、“クレームを軽減する”ことをお勧めしています。

ポイントは理由を説明して前置きをしておく。ある意味では【言い訳】をしておくということです。

例えば、女将が挨拶に伺うことを基本としている旅館では、「女将がお客様一人ひとりとご挨拶がしたいと申しておりまして、お食事の際に少しお邪魔してもよろしいでしょうか」と事前にお伺いする。

反対に、女将が挨拶に伺わないことを基本としている旅館では「ご滞在中はお客様に寛いでいただくことを大事に考えておりますので、女将の挨拶は控えさせていただきます」と、ご理解をいただく。

このように理由と前置きがあれば、多くのお客様は納得してくれなくても理解はしてくれるかもしれません。

お客様の一部に、クレームになりそうと考えられる側面があれば、このように予めお客様の感情のコントロールをしておくことも大事です。

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『おもてなし接客術』⑲―「おもてなしと+αの情報」

Posted on 2016-06-11

旬刊旅行新聞6月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑲です。
「おもてなしと+αの情報」

おもてなし接客術⑲.jp

「アンサー&プラス、プラス、プラス、プラス」。これはネイティブの知人がよく言うキーワードです。会話を続けるための練習では、YES or NOで回答できることに対して、YES/NOで終わりにするのではなく、理由づけをしたり、例えを挙げたり、自分の意見を述べたりしようとアドバイスをもらうことがあります。

実は、このことがおもてなしにも当てはまります。お客様からの質問に対し、ただ回答するのではなく、+アルファの情報提供ができてこそ、お客様のことを「思って」+「為す」おもてなしと言うことができます。

例えば、「この温泉街には旅館が何軒ありますか」という質問に対しては、「○○軒の旅館があります」とだけ答えるのは当たり前のレベルです。

そこに「土産物屋は○○軒、飲食店は○○軒ほどございます」など補足情報を伝えられれば、お客様はより温泉街の詳しいようすが掴め、「明日の昼食におすすめの飲食店はありますか」など、会話の幅を広げることができます。

また「“そばがき”って何ですか」という質問には、「そば粉を水で練ったものです」+「練る作業は結構な力仕事です。食感はフワフワして、よく『山芋を使っているのですか』と聞かれますが、そば粉と水以外は一切使っておりません」などの話ができれば、お客様も得した気分になるはずです。

ポイントはお客様に「質問して良かった」「得した」と思っていただく(思わせる)対応をすることです。+アルファの情報も、個々のお客様にとって有益でないものや、有益なものもあり“くどい”説明をするとクレームの対象となってしまいます。

お客様の要求度合を探りながら情報提供する、といった高い接客技術が要求されるので、私の研修では、基本的な対応が十分できている旅館にこのレベルの対応を求めるようにしています。

今よりもワンランク上を目指したいという旅館は、質問に対して+アルファの情報提供をするといった取り組みをしてみてはいかがでしょうか?

先日の研修では、入社1カ月足らずにもかかわらず、+アルファの情報提供がしっかりできている超優秀な仲居さんがいました。実は先述の括弧書きのやりとりは、彼女の事例を紹介したものです。

旅館で働いた経験も無い彼女が、なぜこのようなことができるかというと、日ごろの努力の賜物でした。

わからないことを自ら質問するのはもちろんですが、そばがきについて臨場感たっぷりの説明ができたのは、調理場に実際に入って料理人さんが作っているようすを見て勉強しているためでした。

彼女の仕事に対する姿勢に感心するとともに、スタッフの成長には旅館の風通しの良い職場環境が欠かせないと実感させられます。

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『おもてなし接客術』⑱―「旅館の新入社員研修」

Posted on 2016-04-11

旬刊旅行新聞4月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑱です。
「旅館の新入社員研修」

おもてなし接客術⑱.jp

4月に新入社員研修を実施する旅館も多いと思います。そこで、旅館経営者・幹部の皆様に、新入社員研修に盛り込んでもらいたい内容について触れてまいります。ポイントは、モチベーションを高めること。研修内容次第では新入社員の定着率にも差が出てくるかもしれません。

まず、代表あいさつは必須です。ほかの研修内容は私で代役できますが、これはできません。代表自らが、新入社員に向かって、歓迎の気持ちや宿に対する思い入れ、今後のビジョンを伝え、目標や方向性を共有します。
新入社員にもわかりやすい言葉や表現を心掛けてください。

新入社員の歓迎会は言葉の通り、新入社員を「歓迎」することで、職場での存在意義をえます。そして、既存スタッフとの親睦を通じて、職場のコミュニケーションを円滑にします。別の狙いは、宴の席での振る舞い方で、個々人の適性を見ます。積極的にあいさつ回りをするかとか、先輩への配慮ができるかなどの行動観察をすれば、その後の配属先の参考になります。“ありのままの姿”が見えるよう、なるべく多く時間を取って、盛大に祝ってください。

また、旅館で働くことを改めて認識してもらうため、旅館業と他の業界・業種との違いや旅館で働くこと、仲居の仕事などについて整理をして話をします。

「遣り甲斐」、「だれにでも務まる仕事ではない」、「豊富な知識と高い接客能力が必要とされている」という点、誇りを持って働くべき仕事だということを強調してください。

現状はさておき、なるべく本来のあるべき姿や、お客様が旅館に求めていることに焦点を当てると良いと思います。

お客様体験も必要です。自分の働く旅館の大浴場に入ったことや料理を食べたこと、客室に泊まったことが無いというスタッフが驚くほど多いです。この状態のまま、お客様に説明・提案することは不可能です。

必ず一度は、お客様として宿に泊まってもらう機会を作ってください。旅館に染まる前の真っ白な状態である新入社員の時期に宿泊体験をさせ、気付いた点、気になる点を指摘してもらうという意味でも大事なことです。

一方で、従業員に入浴を許可している旅館は、脱衣場や大浴場でのマナ―の指導が必須です。いまや「各人の常識に任せる」は通用しなくなってきています。

実例を挙げると、先程まで食事や布団の世話をしてくれていたスタッフと大浴場で顔を合わせても、あいさつのひとつもない。浴場を出るときに風呂桶や椅子の整理をしない、脱衣場のドライヤーを占領しているなど、これらの一つひとつを注意しなければならないようです。お客様は宿泊料を払って入っているお風呂だということを、強く認識させる必要があります。

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『おもてなし接客術』⑰-タクシー運転手のおもてなし

Posted on 2016-02-11

旬刊旅行新聞2月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑰です。
「タクシー運転手のおもてなし」

おもてなし接客術⑰.jp

先日、長野県の松本城周辺でタクシーに乗りました。バスで移動もできましたが、迷った末にタクシーを選ぶことにしました。金額にするとバスが200円、タクシーが2500円と約12倍の開きがありましたが、そのことで料金差に価値を感じさせてくれる、タクシー運転手さんとの嬉しい出会いがありました。

何に価値を感じたかというと、とにかく物知りという点でした。タクシーの運転手さんなので、松本市内の地理はもちろんですが、歴史に対する知識が豊富で面白いのです。おかげで松本に対する興味が深まりました。

車を走らせながら、「この地区は昔○○だったので今の地名に由来しているのです」とか、「昔はここがお城の外堀だったのですが、今はこの一部だけ残っています。外堀復元の工事がはじまるので、また風景がガラリと変わると思います」。

また、「松本城は烏城と呼ばれていますが、地元では烏城と呼ぶ人はいません」、「いまはお城と聞けば松本城のような城を思い浮かべますが、昔は一軒家に塀があればそのお家はお城だったのですよ」などと、地元の人ならではの案内をしてくれました。

こちらの質問にも的確に回答していただき、乗車中に退屈することはありませんでした。今度松本でタクシーに乗る機会があれば、この運転手さんを指名したいと思うほどです。

このタクシー会社は、観光タクシーのサービスも提供されています。私が乗車したタクシーの運転手さんは、知識も豊富で話術も見事でしたので、おそらく観光タクシーも受け持たれているのだと思います。

運転手さんのおかげで、もっと松本を知りたい、観光したいと思うようになりましたので、もう一度足を運びたくなるのは必然です。

観光地のタクシー運転手のあるべき姿を見た気がします。この経験から、同じことを旅館のスタッフにも求めたいと思っています。

“特定の旅館に泊まりたいからその地域を訪れる”お客様はもちろんいらっしゃいますが、それよりも“特定の地域を訪れたいからその地域の旅館に泊まる”というお客様の方が圧倒的に多いと思います。いくら旅館の料理や施設、接客が良くても、そもそも地域の魅力が無ければ、お客様はなかなか再来してくださいません。

その穴埋めができるのは、やはりスタッフの接客力ではないでしょうか。今回の運転手さんのように、地域の魅力を伝えられるよう、歴史・文化などの知識を身に付けてお客様の地域に対する関心を高めることができれば、今まで以上にリピーターを増やすことができるはずです。

今後の接客研修では、リピーターを増やすための仕組みづくりとして、地域の魅力を伝えられる能力にもスポットを当ててみようと考えています。

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『おもてなし接客術』⑯-おもてなしは自分磨きから

Posted on 2015-12-11

旬刊旅行新聞12月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑯です。
「おもてなしは自分磨きから」

おもてなし接客術⑯

おもてなし接客術⑯

先日旅館の求人ページ作成の仕事で、スタッフの皆さんにインタビューをしました。予約、フロント、仲居、調理場、売店などあらゆる部署のスタッフの方とお話をさせていただき、キャリアステップや先輩の声といったコンテンツを作成しています。お客様評価が非常に高く、リピーターも多い旅館様ですので当然かも知れませんが、仲居さんの会話スキルの高さに圧倒されました。さすがは、お客様と接する時間が長い部署だけあって、相当鍛えられているなといった印象を受けました。

こちらの意図を汲み取り、聞きたいことを先回りして話してくださる、そう感じる場面が多く、会話のキャッチボールがスムーズにできていることを実感しました。話をさせていただいてとても気持ちが良かったです。

このように心地良い気分にさせてくれる仲居さんたちが、普段どんな取り組みをしているかというと、『自分磨き』でした。とくにリピーターのお客様から指名が入る仲居さんは、並々ならぬ努力をしています。

最新の地域情報誌を常にバッグのなかに入れて持ち歩いていたり、旅番組を欠かさずチェックしていたり、担当するお客様がお住まいの観光地や特産品、ニュースについても調べるのが日課となっていました。

知識や情報を持っていないとお客様との会話が盛り上がれず、まさに会話のキャッチボールができないということを認識しており、なるべく話題を共有できるよう意識しているとのことでした。

このことは私の研修でも触れています。お客様とのコミュニケーションを、宿からの案内事項を伝えることやお客様の質問に答えること、と勘違いしているケースが多いためです。本来コミュニケーションとは、相互的なものであって、興味があるが故に成り立つものです。

そもそもお客様は皆さんの旅館に興味があるから泊りに行くのです。皆さんもお客様に興味を持つことで、初めてコミュニケーションを取ることができるのです。

自分の担当するお客様に興味を持って下調べすることこそ、相手のことを思って為すおもてなし接客です。

今回のインタビューを通じて改めて仲居という職業のレベルの高さと、遣り甲斐を感じています。個人的には、仲居業=究極のおもてなし業の1つと考えており、接客を極めたい方にとっては最高の職業だと考えています。

ただ、「おもてなし」がこれだけ取り上げられ、日本文化が見直されているにもかかわらず、仲居を目指す人たちが増えず、仲居のイメージがいつまでたっても良くならないのは非常に残念でなりません。外国人に価値を見出されて日本人が再認識するという日本の観光地で起きている現象が、仲居という職業にも当てはまればと期待する今日この頃です。

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